シン・ゴジラがキネマ旬報ベストテン2位!(と『流星人間ゾーン』レビュー)

キネマ旬報のベストテンに、シン・ゴジラが2位になりました。脚本賞として庵野秀明が受賞しました。
これは大変喜ばしいことです。
庵野秀明スタジオカラーという会社を立ち上げていて、
このスタジオカラーでは、これから特撮アーカイブという
日本特撮のミニチュアや着ぐるみなどを保存する事業をやるそうです。
庵野秀明が館長として開催された特撮博物館の成功から、いい状況になりました。
大いに期待致します。

さて前回に引き続き、アメリカ大統領選でのトランプ大統領の勝利についてのことについて
書き足らなかったことがあったので書きます。
大方のアメリカの著名アーティストやアメコミ関係者はトランプが大統領になったことに猛反発していますが、
その一方で、実はクリントイーストウッドはトランプを支持しています。

その理由は、「ポリティカルコレクトネス
(人種・宗教・性別などの違いによる偏見・差別を含まない、中立的な表現や用語を用いること)
にとらわれ過ぎていて、軟弱な時代になった」
「内心ではみんなポリティカルコレクトネスに媚びるのはうんざりしている」
ということであるそうです。

*参照:クリント・イーストウッドがトランプ氏支持(ハフィントンポスト 2016年08月05日)
http://www.huffingtonpost.jp/2016/08/05/-clint-eastwood-donald-trump_n_11345598.html

クリント・イーストウッド共和党支持者(つまり保守)でリバタリアンなのですが、
副島隆彦『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』などを参照)
その共和党支持者の保守派のクリント・イーストウッドがトランプを支持し、
その理由は、ポリティカルコレクトネス、つまり差別表現の自主規制に対してうんざりしたからなのです。

このイーストウッドの差別表現の自主規制への反発に近いことは、
実は90年代以降から現在までの日本の大手マスコミの文化人や関係者も
よく言っていたことだったりします。

差別表現の自主規制への反発について、大手マスコミは今でも、
あたかもそれを主張することがリベラルであるかのように言いますが、
実際は逆であり、トランプとトランプを支持する層の言い分にかなり近いということです。
このことを、大手マスコミの人間たちは強く意識する必要があると思います。
思えば、日本の映像関係者も、
近年、この手のことはよく言っていたのではないでしょうか。

このあたりが、日本の大手マスコミの人間たちの多くが、
リバタリアニズムリベラリズムと誤解していることがわかる部分でしょう。
(ただリバタリアニズムは人種差別は否定するスタンスの人もいるのですが、それでも基本的にあくまで権利の平等を保障するようにいうのみであり、結果の平等までは保障しません。
また、基本的に経済活動にせよ表現にせよ人為的な規制は避けて、成り行きに任せるという考え方です。これはリバタリアニズム及び資本主義の保守の考え方で共通する部分です)
今の世界情勢は、混沌の時代というより、反動主義の時代といったほうがよさそうです。

クリント・イーストウッドの映画と政治的スタンスについて触れた過去の日記です

wandaba2019.hatenablog.com


そういえばシン・ゴジラのヒットの相乗効果なのでしょうか、
流星人間ゾーンのDVDも最近、安い値段でバラで再販されて、
やっと落ち着いて観れる状況になりました。
そういえば、流星人間ゾーン関係のものも特撮博物館にありましたね。

以前も、DVDボックスで発売されたものがバラで安い値段で出たことがあり、
その時に少し見たのですが、その後高額プレミアがついて、
レンタルしているところもなく、なかなか見る機会がなかったので久々に買ってみました。

5巻目に収録されている、小栗康平の撮った2本がすごい不思議な味わいですね。
特に21話の「無敵!ゴジラ大暴れ」は、割と普通の話しながらも、
いろいろと前衛的な工夫をしているのが面白いです。
この脚本で普通はこんな演出は思いつかないでしょうね。
冒頭で、ゴジラとゾーンが特訓するのも語り草になってますね。

流星人間ゾーンは雰囲気的にはタロウとジャンボーグAを混ぜた雰囲気のように思えます。
(タロウ、ジャンボーグAに比べてドラマ性は強くないですが)

話によってはかなりハードな回もありますね。
ガイガンのでてくる話は、剛たつひとがゲストなんですが、
剛たつひとが演じる佐々木という人物が、
防人光が新型エンジンの車のテストドライバーに選ばれたことを
妬んで、ガロガに魂を売ってしまうというところ
(ガロガに操られたのではなく、妬みからガロガに本当に協力してしまう)
や、佐々木が改心してガロガに反逆するものの、
ほとんと犬死でガロガに射殺されるところとかかなりハードですね。
東映スパイダーマンあたりであってもおかしくない話のように思います。
最後に、人間の欲望にガロガがつけ込んだ、というセリフがあったり、
テーマ的にはウルトラマンエースの4話に近いです。

特撮もかなり質が高く、福田純の本編の演出も凝っていて、
結構見ごたえがあります。

(後日加筆修正 21.09.03)

流星人間ゾーンに本多猪四郎が初参加した
3話の「たたけ!ガロガの地底基地」も好きですね。
ゲストの科学者の一家の奥さんが「夫が仕事仕事でつまらない」
といって夫への不満から家出しているというのが子ども番組としては異色ですね。

こういう話は、大概、科学者の息子か娘が
父が研究熱心で家に帰ってこないということを寂しがっているというドラマが多いのですが、
シャリバンの3話あたりが代表的でしょうか)
このゾーン3話は、夫が仕事で家に帰ってこないことに
奥さんが不満を持って家出してしまっている
(夫婦仲が悪くなって別居)のです。
こういう夫婦関係は普通子ども番組ではあまり描かないドラマですね。

この科学者の息子はどちらかというと、
家に帰ってこない父より家を出て行った母の方を恨んでいて、
母が趣味で作っていたという紙の日本人形の首を
ふてくされながら、もぎ取ったりしてるというのがちょっとエグいです。

最後は、ゾーンマザー(お母さん)が奥さんを説得して連れ戻してきて、
夫婦は仲直りして終わり、という結末で、
一応、この夫婦の離婚の危機のドラマを決着をつけています。

武末勝という人の脚本ですが子ども番組をあまり書いていない人なので、
子ども番組であまりやってなかった展開を
無意識に書いてしまっているという感じで面白いですね。

この回は前述の通り本多猪四郎の初参加の回でもあって
ガロガの異次元空間の基地の描写が
真っ暗な空間にスポットライトで人物が照らされているという
工夫が結構シュールで面白いです。
(近い演出を怪獣大戦争でもやっていましたね)

川北紘一の初参加の回でもあり、
異次元ネットというガロガが使う兵器を光学合成を多用して描いていて
いかにも合成が好きといわれる川北紘一らしさを感じる特撮でした。


ガロボーグの回は、脚本が福田純で、監督が本多猪四郎、というすごい組み合わせの回でした。
ゾーンの本多猪四郎の演出は中盤から人物の会話の場面ではズームを多用するようになり、
この回もその特徴が見られます。

13話のガロボーグの回は、福田純が自分で脚本を書いた回で
同時期の仮面ライダーの脚本の
伊上勝の脚本っぽい駆け引きの工夫が楽しく、これはこれでよくやっていると思います。
(爆弾が仕込まれているというケーキを防人光が造成地に捨てに行くが、捨てた直後すぐに爆発せず、
一瞬爆弾ではなかったかと思わせておいて時間差で爆発するところや、
エンジェルが敵の罠にかかったふりをして敵を追跡しようとした時に
ゾボットを落として連絡がつかなくなってしまう、等)
思えば、福田純ゴジラ映画はそう言った駆け引きの面白さが重視されており、
ゴジラ対メカゴジラがそれに当たりますね。

ゾーンの中盤以降の本多猪四郎の演出の格闘シーンでは、
手持ちカメラを多用するという、それまでの本多猪四郎の演出では
あまり見られなかった試みが見られます。
こういった試みはガロボーグの回でもみられます。

本多猪四郎のゾーンでの人物の会話の場面のズームの多用は、
劇場映画での本多猪四郎は、会話している人物へカメラをクレーンで寄ったり引いたり、
という演出をよくやるのですが、このころのテレビではクレーンを使った撮影は
できなかったようで、おそらく、そう言ったクレーン撮影の代用としてズームを使っていた感じがあります。

ガロボーグの回は、最後にゾーンファイターがワキで木をこすって静電気を起こすのが語り草になってますね。
この場面は今見てもギャグとしてかなり笑えます。
(特撮監督が田淵吉男なので、田淵吉男が台本に手を加えて撮った可能性が高いです)

特典で、ゾーンファイターのスーツアクターの久須美譲と
怪獣(恐獣)のスーツアクターの図師勲のインタビューもあって、
ゾーンの前の円谷作品や、当時のことを結構覚えていて楽しめました。

流星人間ゾーンではキングギドラも出ていて前後編で描かれますが、
この前後編もキングギドラがかなり強敵として描かれていてテンションの高い回でしたね。
ガロガがキングギドラを使って破壊しようとするのが
大気汚染を防ぐために研究された装置で、このあたりは公害問題が背景にありますし、
キングギドラを倒すのにゾーンファミリーはかなり苦戦し、
ゾーンファミリーが故郷の星に帰るためのパンドラカプセルという宇宙船を
使用せざるをえなくなり、ファミリーが悩むというドラマがあります。

この時、ゾーングレート(おじいちゃん)が、
「もうわしらは地球の人間なんじゃ」というところがなかなか泣けます。

ものすごく深読みすれば、この作品は東宝特撮としては
日本沈没の公開直前(製作中)の作品ですので、これを日本沈没と結びつけて、
この回のゾーンファミリーは、
日本を失った後の、その後の日本人の姿、とか言ってみても面白いかもわかりません。

そういえば、流星人間ゾーンの1話は、
ゾーンファミリーと一緒に地球人の家族もガロガに捕まる、
という話なのですが、
その時にその地球人の一家が
「私たちはこの人たちとは関係ありません。助けてください。」といって
ゾーンファミリーを見捨てて命乞いをするのですが、
この展開はシルバー仮面の4話に近いものがあると言えますね。
最後にこの家族は、この時の言動を反省して終わるのですが、
一応、このあたりがドラマのテーマといえそうです。

2話は、ゾーンジュニアの同級生の友達が、
ゾーンジュニアを狙ったガロガの手違いで失明してしまい、
その友達を救うために自分の角膜を移植するように
ゾーンジュニアが願い出るという話で、
ピースランド星人であるゾーンファミリーは、
角膜を取っても一週間で再生するという設定が出てきて、このあたりはSF的でいいですね。
この失明したゾーンジュニアの同級生は、
ゾーンジュニアが地球に来てから初めて友達になった生徒とのことで、
宇宙人と地球人の交流というのが一応ドラマのテーマということがいえそうです。
(どちらかというとガロガとゾーンファミリーと謎の男(城タケル)の駆け引きが話の中心ではありますが)

4話はゴジラ初登場の回にしては、ゴジラが付け足し的に出てくるのが
ちょっと残念ですが、話自体は、ピースランド星にいた時のゾーンエンジェルの
幼なじみがガロガに寝返って、ゾーンファミリーを襲ってくるという話で、
レオのロンの回や、グレンダイザーあたりでもあった話で、
故郷を失ったというゾーンファミリーの設定を生かしたドラマ性のあるいい話ですね。