ジェットマンについての考察(戦隊の人気はジェットマンが回復させたともいえないことや最終回の問題点など)

※文中敬称略。

東映スーパー戦隊シリーズの2022年度の新作、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』が発表になりました。
『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の初回の脚本は井上敏樹が担当するそうですが、それに伴ってなのでしょうか、
井上敏樹が最初にメインライターとして参加した『鳥人戦隊ジェットマン』が、東映公式YouTubeで流れてますね。

ジェットマンは内容的に色々と変なところがあり、ジェットマンの最終回は、凱(ブラックコンドル)が刺されたとき、刺されたまま結婚式場に行くのですが、なぜ病院に行かないの?という疑問もわく雑さがあります。無理矢理に衝撃的なラストにもっていった感がありました。この点は、とある情報系のテレビ番組(日本テレビ人生が変わる1分間の深イイ話』 2010年10月11日放送)で取り上げられ、お笑いタレントが突っ込んでいたそうです。マニアではない外野の人間が冷静に見れば、このお笑いタレントのようにジェットマンの最終回の筋立てに無理があることに気づくのが普通と思います。

雷太がホワイトスワンへ好意を示す回(22話)がありますが、これは設定上の混乱で、雷太は9話で幼なじみの女性とすでに許嫁のようになっているという設定があり、この設定と矛盾することからホワイトスワンへの好意を示したのは、この回のみで終わっています。
グレイがマリアに好意を持っているという設定も後から突然追加された感じでした。
また、香(ホワイトスワン)と凱(ブラックコンドル)の仲が悪くなる過程が、なぜか端折られており、わずかしか触れられないまま、最終回で香と竜(レッドコンドル)が結婚するという展開も雑でした。

さらにジェットマンは、敵組織バイラムの敵幹部のラディゲが、
人間の葵リエを洗脳してマリアという幹部に改造するのですが、
なぜそんなことをしたのか理由が説明されておらず、
この点も、単に雑なだけのように思えます。
(色々と後付けで考察する人はいますが。
小説版のジェットマンではこの点を気にしたのかリエを洗脳してマリアにした理由の
設定が足してあります。)

またジェットマンの1話は、バードニックウェイブが、たまたま人間の若者にあたるのがご都合主義で無理があり、当時から「老人に当たったらどうなるのか」「地面や建物になぜ当たらないのか」「動物にあたっていたら?」と気になりました。お話の発端からかなり無理がある設定だと思いました。

ジェットマンは新型ロボが登場するなどのイベントがない普段の話は、レギュラーの人物の恋愛関係のドラマが話に絡まないか、わずかしか絡まない回がかなり多く、それらの回は他の戦隊でやってそうな話が多いです。
(メインライターの井上敏樹の執筆本数があまり多くなく井上敏樹が書いた話でないとレギュラーの人物の恋愛関係のドラマが進展しないので)

本当は井上敏樹が不参加の『爆竜戦隊アバレンジャー』のほうが恋愛相関図が複雑でセックスシーンまであって過激なのに、
いまだにジェットマンの評価が神格化されているとは驚きです。

アバレンジャーは、五角~六角ぐらいの関係の恋愛をえがいています。
アスカ(アバレブラック)とマホロ(敵エヴォリアンの幹部ジャンヌ)は婚約者で、仲代(アバレキラー)は
ジャンヌに好意をもち、
リジェ(リジュエル)は仲代がすきなので、この4人は四角関係です。
で、それに加えて樹らんる(アバレイエロー)がアスカに内心好意をもっていて、
さらに敵の首領デズモゾーリアがマホロをレイプしてリジェを出産させたということなので、
六角関係ぐらいの恋愛相関図になってますね。

さらに、アスカは浮気してたかもしれないという描写もあり、そうなると、
7角ぐらいの相関図になってます。
後に二人の間では、デズモゾーリアがマホロを無抵抗にするために見せた幻覚
ということになってますが、完全に断定されたわけでもなく、ほんとに浮気した可能性もあります。
(44話において、ほんとに浮気していた可能性があるかのような描写がある)

それで、ベッドシーンがあるんですからアバレンジャー
ジェットマンを超えてるといえるんですが、
いまだにジェットマンが最高とかいわれるのがよくわからないですね。

ジェットマン井上敏樹がメインライターでしたが、
井上敏樹は現在東映の取締役の白倉伸一郎のお気に入りということで、
東映は過剰に井上氏を強調して宣伝する傾向もあると思います。

井上敏樹は、他の脚本家と比べてそれほど突出しているとは思えないのですが、
なぜか一部の特撮ファンに井上敏樹の作品だけ過剰に意識する傾向も見られます。
いい例が、『超力戦隊オーレンジャー』の第15話で、この回は『秘密戦隊ゴレンジャー』の第73話(この回は上原正三による脚本)にかなり似た話ですが、
一部の日本の特撮ファンに過剰に高く評価されている傾向があります。

特に、井上敏樹は、日本で誹謗中傷やヘイトスピーチだらけで評判が悪いことで有名な
2ちゃんねる」という匿名掲示板に多く書き込んでいる
日本の特撮ファンに強く支持されていました。その影響が今でも残っているとも考えられます。

スーパー戦隊の人気はジェットマンの前作『地球戦隊ファイブマン』の後半から持ち直してきており、
ジェットマンの次回作の『恐竜戦隊ジュウレンジャー』の方がグッズの売り上げや視聴率も上であり、
ジュウレンジャーには井上敏樹は1本しか脚本を担当していないため、
そうなるとスーパー戦隊シリーズの人気の盛り返しは、
井上敏樹一人やジェットマン1作の功績ではないということになります。

ジュウレンジャー視聴率はこちら→  https://w.atwiki.jp/shichouseiko/pages/62.html
ジェットマン視聴率はこちら→ https://w.atwiki.jp/shichouseiko/pages/61.html

ジェットマンの前番組のファイブマンの最高視聴率は13.3%で、ジェットマンの最高視聴率12.0%を上回っています。
ファイブマン視聴率はこちら→ https://w.atwiki.jp/shichouseiko/pages/60.html


ジェットマンジュウレンジャーは平均視聴率は同じですが最高視聴率、最低視聴率はジュウレンジャーが上です。
その上、ジュウレンジャーはおもちゃの売り上げも記録的なヒットをしました。

また戦隊シリーズ最低視聴率を出した番組は『激走戦隊カーレンジャー』です(25話。1.4%)

カーレンジャー視聴率はこちら→  https://w.atwiki.jp/shichouseiko/pages/66.html

戦隊シリーズの人気は『超力戦隊オーレンジャー』と『激走戦隊カーレンジャー』で再び低迷し
放映時間帯の変更でやや持ち直し『百獣戦隊ガオレンジャー』で人気が再燃しましたが
ガオレンジャー井上敏樹は参加していないことも重要です(ガオレンジャー白倉伸一郎も不参加)。

(リンク先の視聴率が掲載されているサイトは、
当時でた『月刊ニュータイプ』(KADOKAWA)という雑誌に掲載された視聴率を情報源にしたサイトです。
当時は現行の実写特撮作品の視聴率を月刊ニュータイプは毎月掲載していました。)

ジェットマンというと、トランザが精神崩壊するという展開が話題になりますが、
同様の展開が先に『超獣戦隊ライブマン』でありました。
ドクターオブラーが仲間内から利用されたショックで
精神崩壊して車椅子生活になってしまうという展開でした
(第21話。この回の脚本は曽田博久)。

 

繰り返すようですが、これらのことから、
スーパー戦隊シリーズの人気の再燃は、
井上敏樹ジェットマンの功績ではないということになると思えます。

もし、井上敏樹の参加によって、
それ以降のスーパー戦隊が変わった点があるとすれば、
必ず毎回、戦隊のメンバーが全員変身しなくてもよくなった、
という点が変わった点といえます。
また、1〜2話にヒーローを全員登場させない、という点も
それまでの戦隊から変わった点といえます。
これらの点は、あとのシリーズに引き継がれており、
そういった構成面での仕掛けのアイデアを提供した点は確かに
井上敏樹の功績かもしれません。

しかし実は『ジャッカー電撃隊』の第34話(脚本は上原正三)では
戦隊のメンバーがビッグワンしか変身しないため、
戦隊のメンバーが全員変身しない回はジェットマン以前にも前例があるといえ、
そうなると、やはりジェットマンが最初とはいえないということになります。

また、メンバーが1話で全員揃わないという点は、
超獣戦隊ライブマン』は5人全員が揃うのが中盤なので、
この点ではライブマンが先ともいえます。
ライブマン放送終了直後の吉川進の雑誌『宇宙船』でのインタビューで、
ライブマンのメンバー増員は最初から計算してやった、との発言もありました。
(当時、吉川進は東映のテレビ事業部企画営業第二部部長で、
東映の実写特撮作品を全体的に統括する立場にあり、
ライブマンも吉川進はOPやEDにクレジットはされていないものの関わっていた模様。

戦隊ヒーローのレッドが敵側の女性と恋愛関係にあるというのは、
光戦隊マスクマン』が最初(レッドマスクとイアル姫)で、
ジェットマンのレッドホークとマリアの設定は二度目ということになります。
ジェットマンのレッドホークとマリアの設定は
この『光戦隊マスクマン』の設定のバリエーションのように思います。
本来は、内容的にはこの『光戦隊マスクマン』が革新的な作品であり、
ジェットマンはそのバリエーションであり、スタッフに若手のスタッフを
大幅に起用したことが改革だったと思えます。
(そうはいっても監督は雨宮慶太以外はベテラン監督で固められていたのですが)

※2022.02.06追記:メンバーが全員変身しない回が『ジャッカー電撃隊』にあるということを
読者の方(ワンナイト様(@FM4FGDbCyPjm6t4))から教えていただき追記させていただきました。ありがとうございました。

しかし、当時若手だったヘッドライターの井上敏樹の執筆本数がジェットマンは実はあまり多くないので(一部の設定編は他の脚本家が担当している)、レギュラーの登場人物の恋愛関係のドラマが話に絡まないか、わずかしか絡まない回が実際はかなり多く(本作ではレギュラーの恋愛関係のドラマは井上敏樹以外の脚本家は基本的に描かなかった)、それらの回は他の戦隊でやってそうな話が多いです。

 

※2022.08.12追記:白倉伸一郎PDやそのお気に入りの脚本家(井上敏樹小林靖子、他)は極端な価値相対主義や極端な個人主義に傾倒しています。彼らの価値観は進撃の巨人の作者とほぼ同じです。進撃の巨人は海外で批判されましたが同様の問題点を抱えるプロデューサーと脚本家です。

ジェットマンの最終回はレッドが最後に「全人類の…いや、俺たちの未来がが懸かってるんだ!」と言って人類のために戦うことを否定しているのも嫌ですね。この辺が作り手(主に脚本家)の極端な個人主義のスタンスがでておりジェットマンが支持できない部分です。

ドンブラザーズの主要スタッフ(プロデューサー、脚本家)は『仮面ライダー龍騎』と同じですが龍騎のドラマのテーマは「正義の反対は別の正義」というナチズムの元になったニーチェの思想にありドンブラザーズの場合は怪人が過去のヒーローである点にそれが現れています。

エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』(東京創元社によれば、人間は他者の影響を受けた思想や感情などを、自分自身のものだと思い込むこともあるという。この例として新聞の影響をあげている。芸術作品に対する評価にも影響するそうです。『自由からの逃走』によると美術館に訪れた人間の美的判断を分析すると有名な画家の絵を美しいという人の判断を分析すると実はその絵に対してなんの特別な内的反応は感じておらず、その絵を美しいと考える理由は、その絵が一般に美しいものとされているからだそうです(『自由からの逃走』p211) 

ジェットマンはメイン監督の雨宮慶太が出版業界と繋がりが深く、そのためか本放送中から普段戦隊シリーズを取り上げない当時の『宇宙船』や模型雑誌『B-CULB』といった特撮マニア向けの雑誌でも久々に取り上げられ井上敏樹のインタビューも掲載されました。

なので特撮マニアの間でこの2人の名前が知名度をあげ特撮マニアが先入観的にこの2人の作品を高く評価するようになりそれが現在まで続いていると思います。これは前掲の『自由からの逃走』に書かれたような、他者からの影響を自分の判断と思いこむ現象と思います。 

補足ですが当時『宇宙船』は戦隊シリーズは本放送中は新番組の告知記事が小さく掲載されて終わりなのが普通でした。今では考えられない状況ですが『宇宙船』が放送中の戦隊シリーズを常にとりあげるようになったのはタイムレンジャーの後半からです。

90年代までの東映特撮の制作を統括した東映副社長の渡邊亮徳も当時のテレビ特撮について「大人をもうならせる要素を入れながら子どもがよろこぶ、そんな作品を作っていかなければならない」と語っています(講談社仮面ライダーBLACK RX スペシャル3D映画 仮面ライダー世界に駆ける』渡邊亮徳氏インタビュー記事より)

哲学者の内田樹が「人間は所詮色と欲」というシニカルさは民主主義を機能不全にするといっているが(2022.8.25のTwitterより)井上敏樹の作品はそういうシニカルな価値観を試聴者に植え付けようという作品が多い。ジェットマンのブラックの性格にそれが表れています。

ジェットマンは『東京ラブストーリー』という、
当時日本で大変人気があった漫画、テレビドラマが元になっている(悪く言えば『東京ラブストーリー』を無許可で盗用した)作品といえると思います。
凱(ブラックコンドル)が織田裕二、香(ホワイトスワン)が鈴木保奈美とすると『東京ラブストーリー』にかなり似ているといえます(ブラックコンドル返信前の俳優は、織田裕二に雰囲気の似た俳優ということでキャスティングされたと思えます)。
最終回で3年後に結婚式、というのも『東京ラブストーリー』に似てますね。せめて1年後、2年後などにすればいいのに、3年後という年数も同じとなれば偶然とはいえないでしょう。

*本記事は、以前投稿したものを資料面を増補し、より読みやすく整理して再投稿したものです。