『アメリカの保守とリベラル』続報

さて、どんなタイトルをつけようかかなり迷いましたが、結局こんなタイトルにしました。前回はイレギュラーで火曜に更新しました。未読の方はどうぞ。
*『佐々木毅著「アメリカの保守とリベラル」』
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/58466068.html
(お詫び:今は修正していますが、2月21日の午前中あたりまで、この本のタイトルを『アメリカにおける保守とリベラル』と誤記していました。どうもすいません・汗)。

このサイトで何度も書いていますが、アメリカでは左派のリベラリズムが、福祉国家社会民主主義)の派閥であり、それと右派の資本主義全面肯定派が対立しているという構図になっています。

このようなアメリカ政治の右派、左派の対立の構図を説明されている本としては、副島隆彦の『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』(講談社プラスアルファ文庫)が、現在では入手がしやすく、文章もよみやすいので、この本でアメリカ政治の保革の対立を知った人もおおいでしょう。

こういうアメリカ政治の保革の対立の構図については、ロールズ関係の本でも断片的に触れられていますし、永井均の『倫理とは何か』(産業図書)にもかかれてあります。しかし、これらの本は、そもそもアメリカ政治についてメインに語った本とは言い難い部分もあります。

アメリカ政治をメインに扱った本で、前述のようなアメリカ政治の保革の対立について書かれている本は、副島隆彦の『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』より前にも実は存在していました。それが、佐々木毅(法学博士・前東京大学総長)による『アメリカの保守とリベラル』(講談社学術文庫)という本です。

この本をさっそく読んでみましたが、もう最初の「序説 リベラリズム保守主義」(p9~)で、リベラリズムが、福祉国家社会民主主義)の派閥であり、資本主義全面肯定派が右派であることが説明されています。さっそくその部分を引用しましょう。

「(前略)個人主義的で自由放任主義に傾倒する古いタイプの自由主義保守主義と呼ばれるようになる。個人の自由と競争を徹底的に強調するこの保守主義と、身分制や権威主義に足場を持つ伝統的保守主義との違いは余りに大きい」
「これに対して、個人のより高度な発達を目標に、経済面での政府の役割を強調する流れがリベラリズムと呼ばれるようになる。(中略)そこから政府が経済運営に大きな責任を持つシステム、政府によるさまざまな社会的サービスの提供、福祉国家化といった流れがリベラリズムと結びついていった。七〇年代初頭に公刊されたジョン・ロールズの『正義論』はリベラリズムの精神を理論的、体系的に展開したものとして多大の注目を集め、それをめぐって多くの論議がおこなわれた。(p14)」

このように、この『アメリカの保守とリベラル』では、巻頭に保守主義個人主義、自由放任主義であり、リベラリズムというのが福祉国家のことであると説明されています(p15では「リベラリズム社会民主主義にちかい」という記述もあります)。

また、このサイトで立ち上げたときから、いわば「日本マスコミの見落とし」として、ロールズの『正義論』を取り上げてきましたが、これがやはりリベラリズムを語るときは、重要な位置にあることも、この引用箇所からわかります(もっとも、「福祉国家としてのリベラリズム」を定式化したのがロールズであって、ロールズリベラリズムの始祖ではない)。

このあと、『アメリカの保守とリベラル』ではレーガン政権時代以降のアメリカ政治のながれを説明していくわけですが、本の最初で、アメリカ政治の保革の対立構造を説明しているのは構成的には読みやすいです。
副島隆彦の『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』は、こういうアメリカ政治の保革についての説明が、本の3分の1あたりでようやく始まるのですが、こういう構成よりは、最初にこれを説明している『アメリカの保守とリベラル』の構成のほうが理解しやすいでしょう。

しかし、『アメリカの保守とリベラル』はそのあとの文章はいささか説明不足の感があり、自由市場の「みえざる手」やリバタリアニズムということについて、ちゃんと説明しないで話がすすむので、ビギナーにはとっつきにくいところもあるとおもいます。
『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』では、リバタリアニズム(リバータリアニズム)について、かなり懇切丁寧に説明していたりと、ビギナーがどこがわからないかということを理解した書き方をしていて、そういう点ではわかりやすいです。

『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』は、もともとは1995年に『現代アメリカ政治思想の大研究』(筑摩書房)という題で単行本として出たものを、1999年に文庫化したもので、一部加筆訂正もあるようです。『アメリカの保守とリベラル』は1993年ですから、『現代アメリカ政治思想の大研究』より数年前に、前述のようなアメリカ政治の保革のことを紹介していたことになります。

副島氏の『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』のほうが、文章的に読みやすいうえに、データ的にも細かいため、講談社としてはこちらを文庫化して、佐々木毅の『アメリカの保守とリベラル』のほうをひっこめた感じなのでしょうか。

話はかわって、ひさびさに現行作品についてですが、シンケンジャーは今のところいい感じでいってますねえ。あえて先週の1話の感想は書かなかったんですが、1~2話をみたところ、ちゃんと面識のない人をすくっていたり、「人をまもる」「この世をまもる」といってますね。侍モチーフですが、封建的な序列を否定しているのもいいですね。このまま最終回までいってくれたらうれしいですが。