ニューディール政策はうまくいってたの!

さて、本当は今回は「サブプライム問題について1分でわかる文章」というのを書こうと準備していましたが、たまたま自宅の電気工事に半日近く立ち会って疲れましたんで、そのネタはまた後日改めてやろうかとおもいます(やらないかもしれないけど)。

そうはいっても、今回書くのもやはり経済の問題なんですが、最近一部マスコミで、かつてアメリカで大恐慌を脱したルーズベルト大統領の「ニューディール政策」は、実は失敗しており、そのあとに戦争がおこったから、経済がもちなおしたみたいなことをいう文化人がちらほらいます。

しかし、こういう意見というのは、基本的にアダムスミスの経済理論を支持する人たちの言い分なんでしょ(ようするにそうやってケインズの経済理論に難癖をつけている)。
それをなぜか今の日本国内では「反資本主義」をかかげてリベラルを自称する文化人が言い出す傾向があるので、それが不思議でしょうがないですよ。

ニューディール政策は一応うまくいっていたというような評価がアメリカのリベラル派の人たちにあるからこそ、今度のオバマ政権は「新ニューディール」とでもいうべき経済政策をやるんだとおもうんですけどね。

先日本屋で「緊急出版」と帯にかかれて平積みされていた高橋洋一の『この金融政策が日本経済を救う』(光文社新書)という本があって、どんなことが書いてあるのか読んでみましたが、この本によると、高橋氏はニューディール政策はうまくいっており、戦争に突入するまえにすでに当時のアメリカ経済は回復しはじめていたと書いています(p58)。

この高橋洋一の『この金融政策が日本経済を救う』のおもな論旨は、経済を立て直す際には公共投資などの財政政策だけでなく、同時に金融政策も行わなければ景気は回復しない(p10)というもので、前述のニューディール政策公共投資がクロースアップされますが、実は同時に(先に)金融政策もおこなわれていたということがかかれています(p57)。
少々ややこしい話ですが、高橋氏はいわゆる「上げ潮派」の代表で郵政民営化にも携わった人物で、この本でも金融政策と同時に行う財政政策は「公共投資よりは減税のほうがいい」と書いている(p33)ので、高橋氏本人はリベラル派ではないです。なんでこういうふうに「ねじれる」のか。

補足:高橋氏はこの本で、今の日本経済を救うには金利を下げるほうがいいといいますが、ブッシュ政権も低金利政策をやっているので(それによって投資詐欺がふえたんだそうで)筆者としては同意しません(町山智浩キャプテンアメリカはなぜ死んだか』(太田出版)p150参照)。

このようにニューディール政策は一応の成功をおさめていたといえるとおもうのですが(おそらくアメリカ本国ではリベラル派がそういう評価を下しているんでしょう)、日本の文化人たちのおおくが「ニューディール政策は失敗」と思い込んでいたために、小泉総理の構造改革によって新自由主義が日本に本格的導入されるのを許すきっかけになっちゃったんじゃないでしょうか。

第一、「ニューディール政策は失敗であり、そのあとに戦争があったから景気は回復した」なんていう認識がいまの日本国内にひろまったら、不景気で食うや食わずの状況にいるような人たちが「不景気で飢えて死ぬより戦争がおこって景気が回復したほうがいい」とか考えて開き直って、戦争を望むような市民が増えないとも限らないですよ。こういう影響についての配慮はないんでしょうか。

リベラルで、しかも戦争反対という人ならば、あくまで「ニューディール政策は成功だった。戦争がなくてもアメリカの景気は回復していた。」というふうに言い張るべきなんじゃないでしょうかねえ。逆に構造改革に携わった高橋洋一のほうがニューディール政策が成功したみたいに本に書いているのはあべこべではないかと。

オバマ新ニューディール政策をやるということを報じていた12月11日の「日刊ゲンダイ」の1~2面の『対策は社会主義化政策以外なし』という記事によると、日本の敗戦後の復興のときにも、国鉄や郵便局に帰還した復員兵を就職させるという、ニューディール政策に似たことがおこなわれており、こっちはうまくいったためにその後の高度成長があった(2面)ということが書かれています。
これがうまくいったということは、やはりニューディール政策は有効なのではないでしょうか。このことについて、詳しく説明してくれる文化人はいないんでしょうか。あるいは詳しくかかれている資料とかはないかなあ。

あと話は変わりますが、2つ前の記事で恐縮ですが、書き忘れていたんで書いておきますと、12/18の日記『ちょっと気になったもんで』では、『アキハバラ発〈00年代〉への問い』(大澤真幸 編集 岩波書店) についてふれましたが、これの補足をしたいとおもいます。
この本の巻末の文化人たち数人による座談会は、筆者にとってはかなり引っかかる内容だったので2回前の日記『ちょっと気になったもんで』では、その気になった点をいくつか述べました。

*未読の方はどうぞ 08/12/18『ちょっと気になったもんで』
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/57741927.html

この2回前の日記で書き忘れたことがあったんで書いておきますが、この座談会で本田由紀は「収入の低い人は昔からモテなかった」ということをいっているが、これはどうでしょうか。

昔は「貧乏人の子だくさん」という言葉があったのだから、昔は貧乏な人でも恋愛や結婚ができたということがいえるのではないでしょうか。「貧乏人の子だくさん」というのは、ようするに「貧乏な人はセックス以外に楽しみがないので、子どもが増えてしまい、結果的にもっと貧乏になってしまう」という笑い話だと筆者は記憶しています。

こういう言葉があるんですから、貧乏な人が恋愛も結婚もできないというのは昔からではなかったのではないでしょうか? こういうのを読むと、最近だんだん本田由紀も信用できなくなってきたなあ(本田由紀自身が「収入の少ない男性はダサい」とか考えており、そういう女性側の問題をもみ消そうとしているんじゃなかろうかと勘ぐってしまう。)。

こういう文化人たちって、みんな90年代のニューアカデミズムのブーム(いわゆるニーチェ的なイデオロギー批判と、それに伴っておこった個人主義、拝金主義のブーム)に、いまだに未練があるみたいで、なんか貧困とか格差の問題をあつかっていても、いまいち歯切れがわるい感じで、みてて歯がゆいですねえ。

補足:資本主義と社会主義の折衷的な「福祉国家」の成功例であるデンマークは、雇用政策が進んでいて、現在の日本の雇用問題の解決のヒントがあると思えます。デンマークの雇用政策をくわしく知りたい方は以下の日記をどうぞ。
『現実的な社会変革』(過去の記事です)
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/55262715.html