手をつなぐ全銀河の人類たち

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前回の日記『ジャスピオンがブラジルで大人気 』でふれたように『巨獣特捜ジャスピオン』のブラジルでの人気は筆者の想像以上のものでした。
*前回を未読の方はどうぞ。

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なので、そのうれしさのあまり、こないだ『ジャスピオン』の終盤の話を久々にみかえしました。
この『ジャスピオン』の終盤では、サタンゴーズが東京をジャングルに変えてしまうという展開でした。
このジャングルには複数の巨獣(怪獣)がいて、そのリーダー格(でもないか)の巨獣バドルゲスは、今出ている東映ヒーローMAXのジャスピオンの特集によると、脚本では「ゲシュタポー」という名称だったそうです。

この「ゲシュタポー」という巨獣のネーミングから考えると、この「東京がジャングルになる」というジャスピオンの終盤の展開は、ナチスの優生思想を皮肉ったものという解釈ができますね。ナチスの優生思想というのは、ダーウィンの進化論を人間社会に持ち込む「社会ダーウィニズム」というものです。これをもとに、ナチスは障害者を虐殺していったのです(T四計画といいます)。

『ジャスピオン』で東京がジャングル化する最初の話である44話『君は生き残れるか!出現した太古の魔境』で、マッドギャランは「ここはジャングル、弱肉強食の世界だ!」といって、人間を巨獣の餌にするという人間狩りをはじめますが、この弱肉強食(強いものが生き残り弱いものが淘汰される)というのが社会ダーウィニズムにつうじるものです。

ナチスドイツの障害者の虐殺についてふれた本『ナチスドイツと障害者「安楽死」計画』(現代書館)によると、ヒトラーの生命観は「強者は自分の意志を押しつけることができる。それが自然の法則だ。」という「ジャングルの法則」であり「十年間でヒトラーはドイツをジャングル国家に変えた(145ページ)」とあります。
この本の「ドイツをジャングル国家に変えた」という記述は、奇しくも『ジャスピオン』の終盤の東京がジャングル化する展開とシンクロする記述です。

また、『ジャスピオン』は、拝金主義の消費社会を皮肉った作品も何本かあって、そのなかの1本である第24話『ご用心!月給一億円さしあげます』には、「商売の世界はジャングルと同じで弱肉強食」というマッドギャランの台詞があります。

この回は札束をエネルギーにする巨獣モケが登場します。お金をエネルギーにする怪獣というのは、『ウルトラQ』のカネゴンに通じますが、カネゴンと違いお金の集めかたが、かなりえげつないのが異色です。
そのお金の集めかたというのは、マッドギャランサラ金を経営して、大金をかせぎ、そのお金を巨獣モケがたべるというものです。そして、借金が返済できなかった客へは暴力的な取り立てを行うのですが、そのために若者をあつめて「マゼラン突撃隊」という軍隊のような組織をつくります。

この「マゼラン突撃隊」というのは、能力給制で「商売の世界はジャングルと同じ。弱肉強食だ!」というマッドギャランの「社員教育」をうけて、いい業績があげられないと巨獣モケから光線をあびせられてお仕置きされるという凄い会社です。

このマッドギャランの「商売の世界はジャングルと同じ。弱肉強食だ!」というセリフを、番組終盤の東京ジャングル化と関連づけてみると、終盤のジャングル化した東京というのは、市場原理主義へ傾倒しはじめた80年代後半の日本への皮肉という意味にも解釈できますね。
『ジャスピオン』では、第40話『リッチマン作戦・ダイヤ流星群の謎』でも拝金主義への批判をやっていて、この話も捨て難いですね。

そして、『ジャスピオン』の最終回は、タイトルが『手をつなぐ全銀河の人類たち』というタイトルで、内容も人類愛をテーマにしたものでしたね。神の啓示をうけた5人の子どもとジャスピオンが協力してサタンゴースを倒して宇宙が救われるという展開です。
そして、こうやってサタンゴースを倒すことで「全銀河の人類たちよ、手をつなぎ、力をあわせて銀河宇宙の平和をまもれ」というメッセージを神は人間に教えている、というセリフをラストにアンリがいいます。

『アシッド・ドリームズ』(第三書館)によれば、ヒッピーたちのモットーは「全宇宙的な人類愛」だったそうです(177ページ)。この『ジャスピオン』の最終回の「全銀河の人類たちが手をつなぐ」という神のメッセージは、まさにこの日記でなんども書いた、ヒッピーたちのモットーである「全宇宙的人類愛」に通じるとおもえますね。

で、上に添付してある、人々が手を繋いでいる画像なんですが、これは『ジャスピオン』の最終回の1シーンではなく(笑)、『ヒッピー達の一番暑かった夏』というHPでのヒッピーたちの当時(おそらく60~70年代)の実際の画像です。
http://www.hfitz.com/hippie/mind.html

ヒッピーたちは他の人間たちとの一体感をもとめ、これを「トゥギャザーネス」といいました。この手を繋いでいる画像は、そのトゥギャザーネスを、こういうふうに手をつないで表現していたということのようです。

このように、ヒッピーたちは手を繋いで「トゥギャザーネス」を表現していたことに加え、前述のようにヒッピーたちのモットーは「全宇宙的人類愛」だったんですから、『ジャスピオン』の最終回の「全銀河の人類たちが手をつなぐ」というメッセージは、まさに「全宇宙的な人類愛」に則った「トゥギャザーネス」といえ、ヒッピー文化に通じるものがあるといえましょう。

『ジャスピオン』は前述のように資本主義を「ジャングル」に例えて批判した作品があり、そのうえで最終回は「全宇宙の人間達のとトゥギャザーネス」ですから、実にカウンターカルチャー的な番組だったといえるとおもいます。

シャリバン』の中盤から始まる奇星伝というのは、主人公が故郷のイガ星を再興させるという目的で戦っているので、意地悪くみると民族主義ナショナリズム)の話だったといえるのですが、『ジャスピオン』はそこから一歩前進して「全宇宙の人間達とのトゥギャザーネス」というテーマを打ち出して民族主義を克服したコスモポリタニズムの話といえるでしょう。

*補足(2008/8/17):『シャリバン』のイガ星というのは、劇中での描写でみるかぎりは、単一民族の惑星という設定らしい。

『ジャスピオン』がブラジルで人気というのは、作品の根底にあるコスモポリタニズムが民族の壁をこえて受け入れられたからなのかもしれません。


*補足:社会主義は失敗したから日本が市場原理主義に傾倒するのはしょうがないじゃないか、とお思いの方は、以下の文章をおよみ下さい。。
『現実的な社会変革』(本ブログの過去の日記。)

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 (後日追記 2021.8.8 2021.8.13修正)
新作の仮面ライダーバイスは、自分と実家の銭湯だけを守るという設定のようですね。最近の東映ヒーローは、ここ数年やっと「世界を守る」という昭和の東映ヒーローの人類愛の理念に戻った作りがなされたようなのですが、また、一時期の平成の東映ヒーローのように「大切な人だけ守る」という方向に変わってしまうんでしょうかね。「大切な人(だけ)守る」という考え方は「自分にとって必要のない命は、僕にとって軽いんで。」というメンタリストDaiGoの発言と同じと思えます。
オリンピックの開会式にイマジンがながれたそうですが「人は皆兄弟」が昭和的な価値観ですよ。昭和のあらゆるテレビドラマに底通してた価値観でした。今、行われているSDGsにも「誰一人取り残さない社会」という目標があり(これもイマジンに通じるものですね)、こういう時代性に反していると思うのですが。

↓このことに関連した文章です。
『愛こそすべての愛とは - wandaba2019のブログ』

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 (後日追記 2021.9.2)

今、改めて仮面ライダーバイステレビ朝日の公式のHPをみたら

「一輝は家族を守るために運命に抗い、仮面ライダーに変身。その決意は家族だけでなくやがては人類の未来をも救っていきます。」との一文が追加されていました。

ひとまずは安心といったところですが、平成になってからの東映は、
番組の最初の頃は「人類を救う」といっていながらも、途中から突然主人公が考えを変えて「好きな人や自分の夢だけのために戦う」と思想転向をする『ボウケンジャー』のような例もあるため、そういった事態にはなって欲しくないとの願いを込めて上の文言はあえてそのまま残しました。

www.tv-asahi.co.jp

 


#仮面ライダーバイス #リバイス