対抗文化とは何か?

さて、またまたカウンターカルチャーについての話題です。
『アシッド・ドリームズ』(第三書館)の199ページによると、ビートルズポール・マッカートニーは、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(ビートルズのアルバムのなかでは最もサイケなものとして有名)の制作時期にLSDを経験していました。そのときにマッカートニーは世界を動かすリーダーたちがLSD体験をすれば「戦いをやめ、貧困と飢餓を追放するうごきにでる」と言ったそうです。

このように、貧困撲滅というのは、そもそも共産主義系の運動ですから、カウンターカルチャーやドラッグカルチャーに関係があるのです。週間SPAとかは、貧困撲滅はカウンターカルチャーとは正反対のものだと思い込んでいるんじゃないでしょうかねえ。

対抗文化というのは、アメリカの伝統的な価値観に対する反逆として知られていますが、ここでいう「アメリカの伝統的な価値観」というものを誤解していると、カウンターカルチャーそのものを誤解してしまうことになるでしょう。
もともとアメリカは個人主義が伝統的な価値観です。なので「伝統への反逆」とは個人主義への反逆となります。このサイトの日記でも、かなり前に触れていますが、キリスト教カルヴァン主義がアメリカ建国の精神的な主柱なのです(『最新アメリカの政治地図』(講談社現代新書)232ページより)。

このカルヴァン主義というのは、人間の運命は神によってあらかじめ予定されていて人間の力では変えられないという「予定説」であり、これは弱者救済の否定、社会保障の否定に通じます。今のブッシュ政権の支持基盤のキリスト教徒は、このカルヴァン主義を信じる宗教右派キリスト教右派)といわれる派閥です。
このカルヴァン主義は弱者救済を否定する思想ですから、個人主義であり、弱肉強食の資本主義(市場原理主義)に通じます。よって、このカルヴァン主義というのは、宗教でありながら資本主義に通じるという宗教であり、実質的には資本主義とカルヴァン主義は同じものだといえます。

この辺をあきらかに今の出版マスコミ(メインカルチャー側)は歪めて報じています。一口にキリスト教といってもいろいろな解釈があり、そのなかにはカルヴァン主義のように資本主義と直結するものがあり、それが今のブッシュ政権を動かしているということをほとんど報じない。これはマスメディア自体が資本主義で動いている社会なので、このことを歪めて多くの市民の耳に入らないようにして誤魔化しているんでしょう。

また、カウンターカルチャーが「社会のルールへの反逆」といった場合は、大体が産業効率を上げるための労働規則のことを指すようです。この「社会のルールへの反逆」を、他人への思いやりを否定することだと、大方のマスコミは勘違いしているようにおもえます。

ドラッグであるLSDも、なぜこんなにもてはやされたかというと、このLSDには、「人間の心から貪欲と羨望をとりのぞいて浄化して、たがいをへだててきた障害を破壊するサイキックな溶剤(『アシッド・ドリームズ』158ページ)」として信じられていたからです。LSD解禁の運動というのは、単に非行少年が親や先生を困らせるためにドラッグに手を出すということとは、かなり違う次元の問題なのです。

LSD解禁運動で知られるティモシー・リアリーもドラッグを手放しで解禁することには反対しており、LSDを人間の精神的向上、知識向上、あるいは自己を啓発するための使用に限定し、専用のトレーニング・センターを設立、ライセンスをあたえられた人間にしかドラッグを与えない、ということを提案していました(『アシッド・ドリームズ』162ページ)。
実際LSDに本当に人間の精神や能力を向上させる働きがあるかどうかは意見が分かれますが、バッドトリップさえしなければ、ストレス解消の効果ぐらいはあるでしょうし、もともとLSDマリファナとともに中毒性のない幻覚剤として有名なので、管理した状況で使用すればそれほど危険ではないでしょう。このようにLSD解禁運動は、実は大変まじめな目的の運動だったのです。