君はウルトラマン80を愛しているか

さて、正月三が日はなにも予定がないので、だらだらを無駄話をかいておこうとおもいます。
またもアメリカのカウンターカルチャーについての話題です。『アメリカ「60年代」への旅』(越智道雄/著)には、ベトナム反戦運動のデモをおこなった「ベトナム戦争を終わらせる全国動員委員会MOBE」についての記述があります。
この団体は67年10月にペンタゴン行進というデモをおこないました。この際にメンバーのアビー・ホフマン(国際青年党=イッピーの創立者の一人)は「世界中のあらゆる神を総動員して、十二万人のデモ隊が念力でペンタゴンを三百フィート浮上させると、このアメリカ軍事力の悪しき象徴はオレンジ色に変わり、一切の悪が払い落とされて、ベトナム戦争は終わる」という文句の入ったチラシをつくって配布したという(175ページ)。

市川森一は、よくベトナム戦争を「あれこそ正義の象徴だ」といって「ベトナム戦争=正義」というイメージを日本社会に定着させました。が、MOBEがおこなったデモのチラシに「~アメリカ軍事力の悪しき象徴(ペンタゴン)はオレンジ色に変わり、一切の悪が払い落とされて、ベトナム戦争は終わる」という文句があるとなると、現実のベトナム戦争反対デモをやっていたカウンターカルチャーの当事者たちは、ベトナム戦争を正義として捉えておらず、悪としてとらえていたようです。

アメリカ「60年代」への旅』82ページによると、ヒッピーのコミューンのひとつである「開放」というアナキスト・コミューンでは、いざとなればキューバ革命のように山岳戦ができるように戦闘訓練をつんでいたそうです。このように、ヒッピーのモットーとして有名な「ラブ&ピース」という言葉の「ピース」という言葉はいわゆる絶対非暴力主義を意味するわけでもなかったようです。今の日本でイメージされているヒッピーと実際はちょっと違うということがわかります。

この『アメリカ「60年代」への旅』には、ヒッピーのコミューンにドロップアウトした少女の話題があります。この娘ドーンはロングアイランドユダヤ系の家庭にうまれた少女で、イリノイ大学で「民主的社会を求める学生たちSDS」と接触して座り込みを行い逮捕され、体制内政に絶望し、放浪生活に入ります。その後、芸術家を志望するが、競争が激しく疎外感を味わうのが嫌でドロップアウト。以降、いくつかのコミューンを転々としているのだという(76~77ページ)

このように、芸術家として身を立てるにも、大変厳しい競争があるのが現実の社会です。以前、この日記で書いたように、日本の映画業界もギャラの額によって業界内にカーストがあり、そのカーストの上位に上るべく、日本の映画人たちは激しい出世競争に明け暮れているというのが、日本の映像業界の現状のようです。

テレビ映画、ましてやその中でも子ども番組はカーストの底辺に位置します。いわゆる子ども向けの特撮ものに携わっている無名の監督やその他スタッフたちの中で、たまに大変アヴァンギャルドな感性をもった人がいる場合があります(そういう人たちは、大体特撮マニアといわれるファンの人たちの間で有名になっていたりします)。
筆者は、こういう子ども向けの特撮ものにかかわっている無名の名監督たちは、先にのべたヒッピーのコミューンにドロップアウトした少女のように、映画業界内のカースト制や出世競争に嫌気がさして子ども番組へドロップアウトした人たちなのではないか?などと、勝手な想像をしていたものです。特に円谷作品にはアヴァンギャルドなセンスの無名な監督がおおくいるので、そういうスタッフがおおいのではないか?という印象がありました。

しかし、実際は当人たちのコメントなどを読んでみると、たまたまほかに仕事がなかっただけだった(笑)というのが実情のようで、筆者の抱いていた期待はとんだ思い違いということになるのですが、そうはいっても、日本映画界で無名の名監督・スタッフたちの才能が開花している様を楽しむのも、こういう日本の特撮ものを楽しむ要素のひとつだったりします。

さて、長い長い前置きは終わって、最近、辰巳出版から『君はウルトラマン80を愛しているか』という本がでました。ウルトラマン80について単独で本格的にふれた初めての本という意味で大変貴重です。この本では、関係者のコメントがかなりたくさんのっていて驚きましたね。たしかに80はスタッフの移り変わりが激しくて、そのためたくさんの人がでてくるのかもしれませんが、最近の初期ウルトラや平成ウルトラ以外の時期の円谷作品では、これだけ多くのスタッフが取材に応じたのはちょっと異例でしたね。

この取材をうけた人たちには、先に述べたように「無名の名監督」やその他「無名の名スタッフ」が何人もいらっしゃるのですが、みな一時期の取材よりもちょっと態度が丸くなったような感じでほっとしましたね。一時期、70年代以降から主に活躍した円谷作品のスタッフは「なんで俺なんかに取材すんの?」とあからさまに取材陣をバカにしたような態度をとってくるスタッフがおおくて、一体どうなっているんだろうとおもいましたが。

それだけで、この『君はウルトラマン80を愛しているか』はかなり「買い」な本ですが、なにぶん置いている本屋がすくないですねえ。新宿の紀伊国屋しかなかったぞ。また発行部数は大変少なそうなので、地方の人は読めないんじゃないでしょうかね。

この関係者のコメントの中には、ウルトラマン80の「ウルトラマンが普段は学校の先生をやっている」という構想が、すでに『ウルトラマンレオ』の終了時に立ち上がっていたという証言もありました。
このサイトでなんどか触れたアメリカの新左翼の運動家集団ウェザーマンは、警察に逮捕されたあと、警察の捜査の方法に不正があったとして釈放されました。その後、ウェザーマンのメンバーの何人かは学校の先生になったそうです。一体どんなことを教えてんだ?という気もしますが(笑)。反体制運動家のウェザーマンがあとに学校の先生になったということは、奇しくもウルトラマンがレオの後のウルトラマン80で学校の先生になったことに通じるのではないかと思ったりします。