日本の結婚は「労働契約」

さて、前回の日記でもふれましたが、最近マイケル・サンデル教授(ハーバード大教授)のNHKの『NHKハーバード白熱教室』という番組がブームになっています。そして、この番組で、本サイトでは10年ぐらいまえから取り上げていたロールズについて、好意的にとりあげられて、それによってロールズの名前やロールズの「正義の二原理」が一般に浸透しつつありますね。
ちなみに、この『NHKハーバード白熱教室』は、『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房)という形で書籍化されています。こちらもアマゾンで売り上げ1位になったそうです。

*前回の日記です。2010/7/25『これから「ロールズ」の話をしよう』
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/61513195.html

サンデルの『NHKハーバード白熱教室』の公式ページで、ロールズについて触れている箇所です。
http://www.nhk.or.jp/harvard/lecture/100523.html
国内大手マスコミでロールズの名前がでてくるのはこれが初じゃないでしょうか?この画面はスクリーンショットとって永久保存版ですね。

国内大手マスコミが初めてロールズについてふれたことを記念して『NHKハーバード白熱教室』HPよりもうひとつ。ロールズの回の講演の詳しい解説です。
http://www.nhk.or.jp/harvard/lecture/guide_100523.html

思えば、この10年ぐらいロールズを大手マスコミで取り上げるべき、という投書を色んなところ(学者や団体)にやった記憶がありますからね(格差問題よりも少年犯罪がらみが最初でしたが)。そういう筆者の苦労が、ここへきてやっと報われた感じがしますね(また、大手マスコミで取り上げられないものは信用しない、という日本の大衆心理の怖さ、大手マスメディアへの大衆の依存度の高さというものの恐ろしさも痛感しました)。

サンデルの『NHKハーバード白熱教室』で格差原理を中心にロールズについて触れたのがうれしいかぎり。(自分が格差問題に気づく切っ掛けだからね)貧困問題に興味のある人はロールズ関連書籍は必読ではないでしょうか?

ロールズノージックの対立は、貧困問題に関心のある人たちの間でもっとも知られなければならないものだとおもいます。永井均の『倫理とは何か』での解説が最もわかりやすいのですが、永井氏がノージックのほうを持ち上げちゃってるのが難点といえば難点です。

話は少しかわって、最近『週刊ポスト』で、大変興味深い記事をみつけました。『週刊ポスト』2010/7/23号の56ページ~の『日本のサラリーマンの「小遣い」は世界最低になった』です。

この記事によると、妻が家計を管理して夫が妻から小遣いをもらうという制度は日本独特だそうです。日本では7割が妻が家計を管理しますが、アメリカでは80%が夫が家計を管理するそうです(58P)。この「妻が家計を管理して夫が妻からお小遣いをもらう」という家庭の制度は日本では一般的なのですが、国際的にかなり特殊なのです。
この「お小遣い制」のルーツは、意外にも江戸時代の武士の家庭がルーツだそうです。実はこの「お小遣い制」は、日本の伝統的な家庭のシステムだったというのだから驚きです(59-60p)。

妻が家計を管理して夫が妻から小遣いをもらうという制度は日本独特であり、この日本独特の制度によって「男=労働者、女性=雇用者側」という図式が家庭において発生するといえます。妻が雇用者側、夫が労働者というシステムが家庭内に出来上がることで、結婚が労働契約のようなものになってしまうといえます。これは日本独特の現象であり、この日本家庭における「結婚」の問題はは労使問題としても扱うべきではないかとすらおもえます。

この事情が欧米で理解されてないために、日本のジェンダー事情、とくに女性が年収の低い男性を馬鹿にするなどという現象は海外(欧米)の人間から誤解される傾向があるのではないでしょうか?日本のジェンダー事情は欧米の事情にくらべ、かなり複雑なのではないでしょうか。
男が家庭を支える大黒柱にならなくてはいけない(だからお金を稼げない男は男性として認められず恋愛対象にならない)、というような日本の現状は、伝統的な「妻が家計を管理し夫が妻から小遣いをもらう」という日本の家庭システムに源流がありそうです。

*このことに関連する過去の日記です。
2010/1/23『「男らしさ」の変遷』
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/60839121.html

*追記(2010/7/29)
仮説ですが、日本の伝統的なジェンダー観である「男尊女卑」というのは、実は「お小遣い制」によって経済的には妻が家庭内で夫より優位なので、「男尊女卑」という社会的カーストで男性(夫)を上位におくことで家庭内の男女平等を保とうとしたからではないでしょうか?

丁度、江戸時代に商人をカースト士農工商)の最下位におくことで商人の力を押さえようとしたのと同じようなことなのではないでしょうか?(ともすれば商人は武士よりも力をもってしまうため、江戸時代では社会的カーストで商人を下位におくことで商人の力を押さえていました。)

むろん、そういう社会的カーストで平等を保つというやり方は前近代的なので否定されるべきですが、日本の女性解放運動の場合は、ただ一方的に女性の権利を主張するのではなく「女性も抑圧する側にはなってはいけない」ということを強調する必要があるでしょう。

*追記1(2010/8/5)
もやいでも、最近男の権利を守る「男の会」というのを立ち上げたメンバーがいるそうです。前述のように日本では妻が雇用者側、夫が労働者という図式ができやすいので、労働運動と男性の権利擁護の運動(メンズリブ運動)が結びつきやすいといえます。

*追記:2011/5/1
日本ではフェミニズムというものは「女性が拝金主義に傾倒したり、弱者に冷酷になること」であると理解されていますが、筆者の知人の外国人女性(日本人とニュージーランド人のハーフ)にいわせると、そういう日本のフェミニズム理解はおかしいとのことです。彼女いわく「拝金主義に傾倒したり、弱者に冷酷になることはフェミニズムとは何の関係もない」といっています。

*追記2(2010/11/13)
最近は、妻が夫にイジメを行う「逆DV」という現象があるそうです。この逆DVのなかには暴力をふるう、という以外に「小遣いを渡さない」というものもあります。
*参考:『実は少なくない男性のDV被害者』
http://allabout.co.jp/gm/gc/185704/

*****(以下、過去の日記の重要記事のリンクです。未読の方は是非お読みください)*****

90年代を頂点にして、日本では欧米文化への誤解から個人主義が左翼思想だとまちがえれられていました。この問題について詳しく言及した親サイトの文章や過去の日記のリンクを張っておきます。未読の方はどうぞ。

*親サイト『ワンダバステーション』『公と個の論争への検証』
http://www.geocities.jp/wandaba_station/koutoko.html

*このブログの過去ログ
2010/4/11『リベラル派の「自由」の意味とは』
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/61140438.html
2009/8/2『デューイの教育論への誤解?』
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/60088553.html
2009/8/9『前回のデューイの話の補足』
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/60120442.html
2009/7/18『「住人立ち退き問題」への誤解?』
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/60018587.html

ついでに60年代アメリカのドラッグカルチャーも長らく日本では90年代のロックブームを頂点に誤解されていました。本来はドラッグカルチャーというのは、ドラッグによって人間を人類愛に目覚めさせるという目的でおこなわれていました。このことについて詳しく知りたい方は以下のこのブログの過去ログをどうぞ。

2008/8/2『世界中の神を総動員』
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/56109867.html
2009/8/30『永田町悪魔払い?』
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/60213109.html
2006/1/18『サイケデリック・レンジャーズ』
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/23741545.html

本サイトでは現在の日本における非モテの問題もあつかっています。
個人的にはかなり決定的な分析ではないかと思っております(笑)。
2010/6/26『非モテ現象の真の原因はこれだ』
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/61428868.html

アナーキズムというのも、実はすべて左翼思想ではなく、
右翼のアナーキズムというのもあります。そのことの日記です。
2010/7/11『「空気が読める」は集団主義か?』
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/61483230.html