「派遣切り」か「雇い止め」か

さて、本題に入る前ですが、前回と前々回に派遣村へボランティアにいったことをかきました。未読の方はどうぞ。

『戦慄の派遣村ドキュメント その1』
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/58010413.html
『戦慄の派遣村ドキュメント その2』
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/58089222.html

この派遣村は、現場で働いていた人間はテレビは見れないので、テレビでどのくらい大きく扱われていたかわかりませんでしたが、かなり大きく扱われていたようですね。そういうことがあったからこそ、この運動で政治が動くということもあったとおもいます。扱いが小さかったら、やはりそこまでいっていないかったでしょう。

しかし、先週のあたりから、一部のマスコミで、派遣村に批判的な記事が載ったりしています。見てみると、派遣切りついて「構造改革によっておこった人災」ではなく「不況によっておこった人災」という書き方をしていたり、同時にトヨタの(好意的な)大特集が組まれていたり、あきらかに政財界から、なにかしらの圧力がかかったことがわかるようなものがおおいです。

このへんは、ネット上で、この派遣切りや失業の問題に関心のあるブログなどでは、すでにあちこちで「変だ」という文章が多く載っています。筆者もやはり変だとおもっていたのですが、意外なところで、そういう財界からの圧力の内部告発のようなことがおこなわれました。
朝日新聞の1月23日付の天声人語では、人材派遣会社の団体から「派遣切り」ということばを使わないように」という要請がマスコミにあったということが書かれています。

「「雇い止め」にはその言葉(派遣切り)を使わないよう要請があった。しかし言い換えても、弱い立場の非正社員を便利なクッションに使う実態は変わらない(朝日新聞2009年1月23日の天声人語より)」

いままで、このサイトでは、90年代以降の朝日新聞の姿勢について批判することがおおかったんですが、やっと最近朝日新聞も、もとのリベラルな方向性の新聞に戻りつつあるのかとおもいましたね。

派遣村へ批判的な報道のなかには、異業種への転職に尻込みする失業者を、村民の代表のように出してきて紹介するような記事もありました。しかし、こういう人をカウンセリングして説得するということ自体が、就労支援というものではないでしょうか。
また、就労意欲のない人間がいたとして、不登校の児童と同じようなものであって、それで「生きる資格がない」ことにはならないでしょう。カウンセリングして考えを変えさせるというのも就労支援でしょう。

とくに産経新聞で、今回の派遣村への批判が目立っており、1月18日の報道で、さいたま市が臨時職員を100人募集したところ応募者が18人だったという報道がされましたが、実はこれにはトリックがあるようです。
この募集は応募資格が「さいたま市に在住しており、平成20年10月以降に、勤務先の業績悪化等により解雇された方」とあります。「さいたま市に在住しており~」という条件は「さいたま市の住所がいる」ことですから、これが派遣村にあつまったような住所のない失業者にはネックになってしまうようです。
*参考:「緊急経済対策に伴い臨時職員を募集します(さいたま市公式webサイトより)」
http://www.city.saitama.jp/www/contents/1231209979467/index.html

ユーチューブでみたのですが、派遣村日比谷公園でやっているときにみのもんたが某番組で「ハローワークに聞くと仕事があるといっているんだから仕事すればいいのに」というわけのわからないことをいっていました。が、そういうところに来ている求人というのは、大概は応募資格が厳しくてなかなか応募できない求人がおおいのではないかとおもいます。

これは、自分も社会に出たときの求人がそうでした。大体は「未経験者不可」という募集ばかりで、その段階でもう応募すらできないというような求人ばっかりでした。
あとは応募資格に年齢制限があったりするものがおおく、30代ぐらいまでという求人が大半なので、派遣村に集まったような中高年の失業者は応募すらできないでしょう。

そうこうしていたら、昨日毎日新聞で、農林漁業への就職希望者が殺到しているという報道がありました。このニュースによると、その多くが家電メーカーで「派遣切り」に遭った人などの失業者だったそうです。やはりこういう情報があると、今失業している人たちは就労意欲がないというわけではないことがわかりますね。

*参考:「<農林漁業>就職希望が殺到 農水省窓口に1カ月で3千件」(1月24日 毎日新聞
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090124-00000048-mai-bus_all

そういえば、世間ではアメリカのオバマ大統領の就任で話題騒然です。オバマは基本的にリベラルな人なので筆者も支持しますが、オバマ大統領が手腕を発揮するのはこれからだというのに、もうアメリカが立ち直ったかのような大騒ぎをしてて、ちょっとびっくりしますね。ひょっとして大方のアメリカ人はオバマ大統領については「有色人種が大統領になった」という歴史がアメリカにのこるだけでうれしいという感じなんでしょうか。

そのオバマ大統領が、就任直前に10代のホームレスのための避難所で、ペンキ塗りのボランティアをやったそうですね。全米1万3千カ所で市民もボランティアに加わったそうです。これはキング牧師記念日の19日にやったことなので、アメリカでは毎年こういうことをやっているんでしょうか。タイミングがタイミングなので派遣村とダブってみえました。やはりホームレスの支援をやるということはリベラル派がやることだということが、この報道でわかりますね。90年代の日本では、この辺がかなり誤解されていたとおもえます。

*参考:「オバマ氏ペンキ塗り、バイデン氏大工 キング牧師に敬意」(1月20日 朝日新聞
http://www.asahi.com/international/update/0120/TKY200901200084.html?ref=rss

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補足:資本主義と社会主義の折衷的な「福祉国家」の成功例であるデンマークは、雇用政策が進んでいて、現在の日本の雇用問題の解決のヒントがあると思えます。デンマークの雇用政策をくわしく知りたい方は以下の日記をどうぞ。
『現実的な社会変革』(過去の記事です)
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/55262715.html