サイケデリック・レンジャーズ

さて、またもアメリカのカウンターカルチャーの話題です。
マーティン・A・ヘリー、ブルース・シュレイン共著『アシッド・ドリームズ CIA、LSD、ヒッピー革命』(第三書館)は、アメリカのカウンターカルチャーについて触れている本で、このサイトで何度か取り上げた『アメリカ「60年代」への旅』の著者、越智道雄が翻訳したものです(越智氏は明治大学教授)。
この本は、当然カウンターカルチャーの運動家たちがさまざまなベトナム戦争反対運動をおこしたことが詳しくかかれているのですが、342ページには以下のような記述があります。
「多くの活動家たちが、ヴェトナム戦争とは、決してアメリ外交政策の失敗や勇み足の結果などではなく、それは多くの国で見られるあの帝国主義的介入のいちばんあたらしいかたちなのだ、という思いをいだきはじめていた。」
この文からもわかるように、当時のアメリカ国内のカウンターカルチャーの当事者たちは、ヴェトナム戦争軍需産業を発展させるための侵略戦争だととらえていたようです。

この本では、ヒッピーたちによって組織された伝道者集団「サイケデリックレンジャーズ」というグループについてふれられています。この「サイケデリックレンジャーズ」はジョン・スター・クックという人物を中心とした6人の構成員からなり、選ばれた人物にLSDを投与して、人間の心理的構造変革をもたらす実験をおこなっていたそうです。そして以下のような記述があります。

「クックと、彼に率いられたサイケデリック・レンジャーズはこう信じていた。彼らは、みずからを、ひそかに暗黒の力との前面戦争、この地球という惑星の運命を決する戦いに従事している宇宙における正義の騎士とまでに夢想していたのだ。(171ページ)」

サイケデリックレンジャーズのメンバーが夢想していた上記のことは、なにやらモロに変身ヒーローものにありそうな設定みたいではありませんか(笑)。そうなると、実は変身ヒーローものというのは、それ自体がヒッピー文化、、ベトナム反戦運動、ひいてはドラッグカルチャーに通じる前衛的なものなのかもしれない(!)のです

この本によれば、そういうヒッピーたちを弾圧したCIAは「マニ教的悪魔信仰で、じぶんたちの行動を正当化していた(171ページ)」のだそうです。CIAが悪魔信仰者だったという根拠は、この本でははっきり示されていませんが、大変興味深い記述です。

サイケデリック・レンジャーズによる心理的構造変革の実験を受けた人物には、のちにイッピーのリーダーとなるジュリー・ルービンもいたそうです。この人は、前回の日記でふれた「ペンタゴンを念力で空中に浮上させよう」というペンタゴン行進にも参加したそうです。

*2009/5/30追記:この話題に関連する後の日記です。
2008/8/2『世界中の神を総動員』
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/56109867.html

2009/8/30『永田町悪魔払い?』
http://blogs.yahoo.co.jp/wandaba_station/60213109.html

最後にウルトラがらみの話をひとつ。アメリカのベトナム反戦運動についてふれたもうひとつの本『60年代アメリカ 希望と怒りの日々』(彩流社)によると、ベトナム反戦運動をおこなった新左翼の「マザーファッカーズ」という団体は、集会で空手による瓦割りを披露したそうで「われわれは資本主義や国家をこの(瓦の)ように粉砕してみせるのだ」と見得を切ったのだそうです(340ページ)。このように、実は空手とアメリカの新左翼の運動とは縁があり、その空手を取り入れたウルトラマンレオは、やはり「反体制テロリスト」的なヒーローだったといえそうです。